LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜

10 ストーカー

「直哉はいる?」

 その女性客は入ってきてすぐ、藍にそう言った。派手な赤いワンピースで化粧の濃い美人だった。お酒の臭いを漂わせている。

 一瞬戸惑ったが、すぐに日長直哉(ひながなおや)のことだと思い至る。

「日長はお休みをいただいております」

 社会人のルールとは言え入ったばかりで呼び捨てにしてしまった、と少しドキドキする。

「行くって言っておいたのに。……あんた、新人?」

「はい」

 あんたと言われて藍は動揺する。が、なんとか平常心を保つ。

「私、直哉の恋人だから。覚えておいて」

「はい」

 違和感を覚えながらも返事をすると、その人は満足そうにニタリと笑った。

「ちょっといろいろ見せてもらうわよ」

「どうぞ、ごらんください」

 女性はショーケースを(のぞ)き込む。

 藍を呼びつけ、いくつかの指輪をケースから出させる。トレイに載せて見比べたり、指にはめてみたり、なかなか迷って決められない様子だった。

「色石もいいけど、真珠もいいわね。コンクパールはないの?」

 知らない名前を出されて、藍は戸惑う。

「し、少々お待ち下さい」

 と聞きに行こうとしたとき。

「申し訳ございません、そちらは当店にはございません」

 純麗が割って入った。

 女性は鼻白(はなじろ)んだように、ふん、と息をついた。

「じゃあもういいわ」

 女性は結局何も買わずに出ていった。

 藍があっけにとられていると、

「気をつけてね。トレイにジュエリーを出したまま目を離してはダメよ」

 と純麗が言った。

「それは……」

 藍は周りを見て客がいないことを確認した。






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