LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「あのお客さん、うちにないのがわかってて聞いてくるんだから意地悪いわ」

「そんな人いるんですね」

「あと、稀にアワビの中に真珠が入ってることもあるんだって。面白いわよねえ。売り物になるのかしら」

 アワビの話も驚きだ。しかし、まだわからないことがある。勇気、と思って聞いてみる。

「バロックパールっていうのは……?」

「まんまるじゃない、歪んだ形のパールね。味わいがあっていいわよ」

 知らないことだらけだ。本当にこんな状態でこの先続けて行けるのか、藍は不安になった。

「先程のお客様、日長さんの恋人だとおっしゃってましたが、それで店にないのを知ってたんでしょうか」

「違うわよ。ただの常連。毎週のように来ては何も買わずに帰っていくの。最初は買ってたらしいんだけどね」

「え?」

 さらに藍を混乱させる情報が入ってきた。

「日長さんのストーカーみたいなもんよ。あんまり真剣に相手すると疲れるから、適当にね。無理なら早めに応援を呼んで。店長を呼んでもいいし」

「はい」

 そう答えるものの、適当がどのようなものかもわからない。

 ため息をついて窓の外を眺める。

 外は暗くなり始めていた。



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