LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「アクアマリンは私の誕生石なの」

「へえ」

 石言葉は、幸福、富、聡明(そうめい)、勇敢、と書かれていた。

 当時の藍にはあまり意味がわからなかった。

「へえ、アクアマリンって海の水の意味があるんだね」

「そうだよ。アクアマリンって言うぐらいだもん」

 なぜか自慢げに男の子が言う。

「でもさ、空の色のほうが近くない? きれいな水色だもん。スカイブルーストーンで良くない?」

「ええ? そんなん普通じゃん。俺ならスカイブルーロックにする。ロックのほうがカッコイイじゃん」

「ロックなんて変だよ」

 それからしばらく、アクアマリンをどう呼ぶかで二人で議論した。

「スカイブルークリスタルは?」

 少年が言う。

「それだと水晶だよ」

 藍が答える。

「スカイブルークォーツ」

「クォーツも水晶だよね」

「青空石」

「なんで急に日本語?」

「ブルースカイロック!」

「だからロックは嫌。さっきのを入れ替えただけじゃん」

「じゃあ、じゃんけん!」

 じゃんけんぽん! で藍が勝った。

「スカイブルーストーンで決まりね」

「ブルースカイストーンで! これは譲れない! ブルーインパルスとか、ブルーから始まったほうがかっこいいんだから!」

 よくわからない、と藍は思った。が、ロックをやめてくれたのだから、そこは藍が我慢しようと思った。

「じゃ、ブルースカイストーンで」

 それから二人はアクアマリンを「ブルースカイストーン」と呼んでいた。二人だけの秘密みたいに。
 よくわからない子供のこだわりだったな、と大人になった藍は思う。

 藍にとっての大切な思い出だった。




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