LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 言葉の少ない藍に、瑶煌は宝石のいろんな話題を振ってくれた。

 悠然とした瑶煌の優しい口調は耳に心地いい。穏やかなBGMと相まって、しだいに藍の緊張をほぐしていく。

「そういえば」

 藍はかっこうの話題を見つけたと思って口にする。

「お借りした本に店長のデザインした結婚指輪が載ってるのを見ました。MEILLEURS SOUVENIRS(メイユール スーベニール)にいたころのものだと思います」

「そうか……」

「デザインも素敵だと思いました。ロミオとジュリエットとか、織姫と彦星とか、ネーミングもロマンチックで」

「名前をつけたのは俺じゃないんだ」

 瑶煌は笑顔のままだったが、かすかに悲し気に顔を(くも)らせた。

「そうだったんですか」

「俺個人の感想なんだけどね。結婚指輪のネーミングには使ってほしくなかった。悲恋の二人とか年に一度しか会えない夫婦とか。ロミオとジュリエットなんて片方が勘違いしたせいで両方とも死を選んでしまう。すれ違いや思い込みのあげくに、という二人の名を、これから人生を共に歩もうとする二人の指輪の名前にするのは、ちょっとね」

 言われてみると確かに、とは思うのだが。

 せっかく見つけた会話の種のはずなのに、予想と違う方向に話が転がって、藍はどうしたらいいのかわからない。何も言えずにいると、彼は一方に話を続ける。

「だいたい、名前なんて必要ないと思うんだ。デザインをお客さんに喜んでもらえばいいだけで。オーダーメイドのときなんて石から一緒にお客さんと選ぶんだよ。例えば同じ青いサファイアでも色味に違いがあるし、エメラルドは一つとして同じものがないと言われるくらいで、その理由としては最初から内側に傷があるから、これが天然ものかどうか判別する指標にもなっていて——」

 あ、これ見たことある、と藍は思い出す。

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