LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 ピエールさんの青い貝? かわいいけどジュエリーショップよりはお菓子屋さんの名前のような……と藍は思ってしまう。

 貝の英語ならSHELLなのだが、藍は自分が勘違いしていることには気が付かない。BLUEとBLEUが似ていたから、フランス語であることもわかっていない。

 名前なんてどうでもいいか。とにかく今日からここが私の職場!

 わくわくするとともに、緊張して足が震えそうだった。

 今一度、自分の姿を確認してみる。後ろで一つに結んだ髪は乱れていないだろうか。久しぶりに着たスーツはどこかおかしくないだろうか。ストッキングに伝線は入っていないだろうか。アクアマリンはちゃんとポケットにあるだろうか。――大丈夫だ。

 勇気だ、勇気。

 自分を奮い立たせて、従業員用のドアを開ける。

 勢い余って扉を自分のおでこにぶつけた。

 ごん! と鈍い音が響き渡った。

「いたっ!」

 痛い。じんわり地味に痛い。

 慌てて周りを見る。誰も見ていない、とホッとする。

 何食わぬ顔で入った。



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