LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「スーツ、着てくれたんだ。似合うよ」

 瑶煌に言われ、藍は赤面した。

「あ、ありがとうございます」

「髪型も変えたんだね。前もかわいかったけど、とても似合うよ」

「ありがとうございます。瑠璃さんに身だしなみの指導を受けたので、がんばりました」

 がんばったかいがあった。

 自分でもだらしなく頬が緩むのがわかった。

「瑠璃はきついからよく誤解を受けるけど、根はいい人だから。宝石に対してもお客様にも真摯(しんし)に対応してくれている」

「はい」

 あれは誤解のレベルですむ態度なのか。

 率直に疑問に思うが、瑠璃に全幅の信頼をおいているらしい瑶煌に言っても信じてもらえるかどうか。

 誤解を受けやすいから。

 私もまた誤解しているのだろうか。

 疑問に思うが、瑶煌に聞くわけにもいかない。

「本当に、ありがとうございます。御恩返しできるようにがんばります」

 頭を下げて、店内に戻った。

 ほめられたのがうれしくて、足元がふわふわする。

 派遣のころにはないことだった。

 仕事して当然。上司にはほめられない。

 無難に仕事をして無難に人間関係をこなす。

 落ち込むことは少ないけれど、喜びも少ない毎日。

 それが今はどうだろう。落ち込みも喜びも、倍増している気がする。

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