推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!

01 悲劇のラスボス

「ここは素晴らしい世界だと誰かがどんなに熱心に説こうとも、俺には地獄でしかなかった。だから、終わらせる。世界がなければ、俺のように悲しむ人だって一人も居ないんだ」

 推しのラスボス、ディミトリは本当に良い声。人気ナンバーワン声優が中の人だから、それも当たり前なんだけど……演技も完璧だ。

 胸にしみ通るような、切ない声。

 病院で夕飯時を知らせる放送が鳴り、自作のディミトリ動画が映るディスプレイのリモコンで停止ボタンを押した。

「……はーっ! やだやだ。現実なんて、戻りたくない……ずっと、永遠に動画を観ていたい。もう、やだ」

 さっき、昼ごはんを食べたような気がするのに。

 気がつけば、窓の外は夕暮れ。どっぷりと世界に入りこんでアニメを観ていたら、何時間も経ってしまったようだった。

 両手を伸ばして、大きく伸びをしてため息をついた。そんな訳にはいけないことは、私だってわかっていた。

 食事を食べないと、当たり前だけど生き物は死ぬ。

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