推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!
 好き勝手わめき散らした私が気がつけばスティーブの声はもう、聞こえなかった。バンバンと脅すように叩いていた音も、消えている。

 もしかしたら、扉を破るために何か道具を取りに行ったのかもしれない。

「ううっ……ディミトリっ……」

「シンシア? シンシア! 俺だ」

 私は耳を疑った。手に持っていた拡声器も疑っていたんだけど、本当に私の声を少し離れた校舎へと届けてくれたらしい。

「ディミトリ!!」

 私はつっかえ棒を外して引き戸を開いて、目の前にいた人の胸に飛び込んだ。

「間に合って良かった。怪我は? 大丈夫か?」

 しばし抱き合っていた彼は一旦体を離して、ディミトリは私の体を検分してからほっとしたように微笑んだ。

「ううっ……もう。生きて会えないと思ったー!!」

「うんうん……俺のことを心配してくれて、ありがとう。うん。シンシアは、俺のことをすごく心配してるんだと……よくわかったから」

 ディミトリの顔を見上げたら、彼は顔を赤くしてとても恥ずかしそう。それは、確かにそうだった。

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