推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!

03 不可能任務

 生まれ変わる前の、前世。つまり、心臓が悪くてほぼ病院で育ち、アニメや小説が好きだった女の子だった頃。

 その前世の記憶を私が取り戻したのは、学術都市ドミニオリアに入学試験を受けに来た時だった。

 敷地のど真ん中に生えている、青い空にも届かんとする巨木。

 通称世界樹を見た瞬間に、足元からぶわっと突風が巻き起こったかのような錯覚がして、私は何もかもを思い出した。

 私の転生した世界は小説「君に捧げる愛の歌」という、アニメ化までされた大人気小説の舞台だった。

 聖女ヒロインドジっ子アドラシアンとちょっとくさい台詞を吐く完璧ヒーローエルヴィンの二人は、学術都市ドミニオリアで学生時代に知り合い、そこから壮大な世界救済の旅へと旅立つことになる。

 けど、一読者であった私は、主人公二人の性格があんまり好きになれなかった。

 ヒロインのアドラシアンは自分勝手だし、ヒーローエルヴィンは彼女を甘やかし過ぎ。

 病気で友人も居ない寂しい喪女の心を魅了したのは、聖女ヒロインアドラシアンを健気に愛していたのにどうしようもない不遇や度重なる不運原因で、何もかも報われずに闇堕ちして、結果的に悲劇のラスボスになってしまうディミトリだった。

 ディミトリはダークエルフの血を引いているという理由だけで、幼い時から迫害を受けていた。

 ダークエルフの血が入っていたのは妻と子を守るために亡くなったお父さんで、彼のお母さんは普通の人間だったんだけど、幼い彼をかばってかくまっていると近所の人に密告されたせいで殺されてしまった。

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