推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!
 私は声が聞こえたことを信じたくない思いで、隣を見た。そこにはさっきまで、体を鍛えるために剣を振っていたはずの……。

「ディミトリ? 何でここに……?」

 私はこうして初めて話すディミトリのことを、親しい間柄でないと許されないファーストネームで呼んでいることなんて、お構いなしに彼にそう聞いた。

「……あの、今日も、闘技場で俺の名前を呼んでなかったか? 前々から何故いつも俺のことを見ているのかと、気になっていた。何を企んでいる? 何故、俺にそんなに好意的なんだ? ……俺に流れる血を、知らない訳でもないだろうに」

 問いただすような口振りで、なんで自分を好意的に見ているのかと不思議に思っているのが伝わって来た。

「あのっ……そのっ……この学術都市ドミニオニアでは『種族や思想で差別されることなど、あってはならない』という、崇高な創設者の理念がありましてですね……」

 近づかないで済ませようと思っていた推しに、完全に不意をつかれてしまった私はあわあわと、ディミトリが納得してくれそうな……それっぽい答えを捻り出した。やばい。嘘が下手すぎる。

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