推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!
 そう言ってヒューは軽く肩を竦めたので、今度何かお礼にお菓子でも持ってくる事にしよう。

 そして、一人で帰って行くディミトリの後ろ姿を見て私は「君愛歌」の前日譚のエピソードを、なんとなく思い出していた。

 作者はこの壮大なファンタジー世界観を形創るエピソードの数々はメインとなる小説の本筋以外にも多数出版されていて、前日譚や後日談、はたまたIFストーリーを描いた外伝なども存在する。

 前日譚でディミトリは確か顔に傷が出来るだけじゃなくて……授業中に、何かの事故が遭って、何人かが怪我をするんだけど、それは仕方のない事故なのに彼のせいにされたことがあった。

 それは、彼が顔を怪我する直後だったような……気がする。うーん。それもこれもディミトリ自身が思い返しているような語りだったから時期に詳しい記述がなかった。だから、特定は難しいんだけど。

 何もしていないというのに授業での事故の責任を取らされたディミトリは、彼の孤独の深さに拍車を掛けて、もうすぐ現れるアドラシアンの優しさに唯一の安らぎを求めるようになるんだ。

「どうしたの? シンシア。帰らないの?」

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