推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!
「……? いや、俺は彼には授業を受け持って貰ってないが。確か彼は、一年と二年の魔法薬の担当じゃないか?」

「えっ? そうだっけ? 勘違いしちゃった! えへへ。気にしないでね」

 あれ? おかしい。

 けど、私はディミトリのエピソードは、何度も何度も読んでるから記憶には間違いないはず。

 学長にコネのあるエドケリ先生の授業にある事故で、ディミトリは犯人にされてしまうはずだった。

 いつものように爽やかな汗を流しつつ訓練をしていたディミトリは、休憩に入ることにしたのか、近くに置いてあった自分の鞄の中へと手を入れた。

「あ。そうだった。シンシア。こっちおいで」

「むっ……無理ですっ! そんな! 私のような者がっ」

 唐突な推しの「こっちおいで」に私は、すごく動揺して断った。いや、無理無理無理。何事!?

「えっ、なんで。私のような者って何。俺はそんなに、大した身分でも何もないよ」

 目を開いてびっくりしてからディミトリは少しだけ寂しそうな顔を見せたので、私は違うと慌てて両手を振った。

「違うんです! 嫌がっているという訳ではなく、存在が恐れ多くて!」

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