推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!

15 花束

 私が何度か倒れた詳しい理由を知って以来、休み時間や放課後のような空き時間があれば、ヒューは何か難しそうで分厚い本を読むようになった。

 頭の良いヒューは学校の勉強については、こうして毎日授業に通う必要のないくらいに熟知しているはず。予習や復習だって、彼には要らないものだった。

 だから、そんな風に必死で何か調べ物をしている姿を、私は今まで見ることはなかった。

 多分、私のわずらっている胸の痛みをどうにかするために、彼は治療方法を調べてくれているんだと思うけど……有名で経験豊富な医師でも原因が分からなかったのだから、学生の彼に解決することはきっと無理だろう。

「……ヒュー? あの。帰らないの? 良かったら、一緒に帰らない?」

「あ。うん……ごめん。シンシア。今日は先に帰ってくれる?」

 ヒューは申し訳なさそうに眼鏡を上げながら答えたので、私は曖昧に笑って手を振った。

 前はこうして「一緒に帰ろう」と誘って断られることなんて、なかったのに。

 こんな私のことを、唯一の友人だと言ってくれているヒューには……それこそ、どうかしちゃったんじゃないかと思われてでも、何も言うべきではなかったんだ。

 大事な友人が体の不調を伝えて近いうちに死んでしまうと言われたら、誰だってあんな風に動揺してしまうはずだ。

 解決出来るのではないかと、無駄な努力をすることもない。

 一瞬だけ、ヒューを待とうかなと思ったけれど、断られて居座るのもおかしい。彼の友人ではあるけど、距離の近いことが許される恋人でもないし。

 もうやってしまったものは仕方ないと、私は一人で校舎から寮への道を帰り始めた。

 夕暮れの光で赤く染まる白い校舎に、緑色が赤くなってしまった銀杏並木。

 私はそこを歩く人を見て、思わず声を上げてしまった。

「……あ」

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