推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!
 けど、彼と話したことがない私がディミトリの過去や内面を知り、それすらも愛している理由は、ヒューには絶対に知られるわけにはいかない。

 この世界でも有名な学術都市ドミニオリアで、前世の記憶を持つという世界的に珍しい個体で体の隅々まで観察され、生態を追求される研究対象になんて……絶対に、なりたくはない。

「そっ……それは、うん。確かに……私だって、まだ話したことはないよ……ないけど……うん」

 あわあわとわかりやすく挙動不審になってしまうのは、仕方ない。

 ここでヒューにその場しのぎの嘘をついても、記憶力の良い彼は矛盾を逃さないだろう。ドジなことに定評のある私のことだから、後々致命的なボロが出してしまうこと必至。

 複雑な生い立ちという問題を抱えているディミトリが、今はまだ完全に周囲に心を閉ざしている訳ではないことは、未来起こることを知っている私だけは知っている。

 でも、闇堕ちしていない彼が尊すぎて親しくなることなんて、考えられない。こうして、名もなきモブの一人として、模擬戦を戦う前の彼に軽く声援を送るだけで精一杯の愛情表現。

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