推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!

17 胸の痛み

 私は何気なく次の授業で使う教室へと向かっている時に、胸に激しい痛みを感じて廊下にうずくまった。

 息は満足に出来ないし胸が絞られるように苦しいし、私は自分の死期を悟った。死ぬのは今、この時なんだと。

 なんで、まだ早い。『シンシア・ラザルスのお葬式』の場面は、まだ先のはず……。

 前世でも心臓をわずらっていた私は、激しい心臓の痛みになんとなく既視感を覚えていた。

 死に直面して何をふざけたことを言ってるんだと誰かに言われてしまいそうだけど「ああーこれこれこんな感じだった」と、冷静な自分がどこかに居たりした。

 周囲はうずくまり動かなくなった私を見て悲鳴を上げる子や、先生を呼びに行く声。ああ。本当にごめんね。同級生が死んでしまう直前の、そんな瞬間を見てしまうなんて、トラウマになっちゃうかも。

 けど、私は病院のベッドで過ごすより、出来るだけ心の潤いであるディミトリの傍に居たかった。

 それは、単なる自分勝手な思いなのかもしれない。けど、誰かのためだけに生きることなんて、私には出来ない。

 遠くの方で聞き覚えのある声がして、私の体を誰かが抱きしめた気がした。


◇◆◇


 真っ白な視界に、私は天国に居るんだと思った。前世は亡くなった後にどうだったかなんて、覚えてないや。

 だって、私がシンシア・ラザルスになってから実に十七年が経っている。

「……あ」

「シンシア?」

「ヒュー。貴方って、天使だったの? 変わってると思ってた」

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