推し過ぎた悲劇のラスボスと、同化しちゃった!
「彼が謝罪を、望まないとしたら? ……ディミトリは貴女からの手紙に返事を書いていないはずよ」

 私はそれを言われて、もう何も言えなくなった。そうだった。手紙の返事がないという事実は、ディミトリによる「もう関わりたくない」という無言のメッセージなのかもしれない。

「それに、あんなに素晴らしい人を、顔だけを好きになるなんて。私には良くわからないわ。良くそんなことが言えたものね」

「……」

 ディミトリがアドラシアンに私と話したことを言っていると言うことは、彼女がここに居ることも、彼の意志なのかもしれない。

 私は大きくお辞儀をしてから、こちらをまっすぐに見つめるアドラシアンに背を向けた。

 正しいヒロインアドラシアン。可哀想なディミトリを傷つけるものから、守ってくれる人。

 では、私は? 二人の出会いのシーンのためだけに、死ぬはずだったただのモブ。

 どちらがここで身を引くかなんて、わかりきっていたことだった。
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