育児に奮闘していたら、イケメン整形外科医とのとろあま生活が始まりました
私の左膝に消毒液をしみ込ませた綿球を当てながら嫌味たっぷりにそう言った山内先生は、にやりと片方の口角を上げている。
『逃げずに』って……。病院にいるんだから、逃げられるわけがないでしょうに。

それしても、あんなに広範囲だった左膝の傷もだいぶ目立たなくなっている。さすが山内先生。傷の処置が上手いと言われているだけのことはある。


「これから退院して妃織ちゃんとのことで困ったことがあれば、すぐに連絡して」


左膝にガーゼを貼りながら、そう言った山内先生。

そういえば……。入院してすぐの頃、山内先生の連絡先をもらったんだっけ。
今でも財布の中に丁寧にしまってあるけれど、入院中は病院内にいて連絡することもないし、困ったことがあればまず担当の看護師さんに伝えていた。

もちろん退院してからのことは不安だらけだし、困ったことが出てくるに決まっている。でも、入院中にドクターの日々の忙しさを間近で見て、個人的に連絡をするなんてことはできないと思ってしまった。


「いえ。大丈夫です。山内先生も忙しい……」

「違う。俺がそうして欲しいんだ。心配なんだよ、2人のことが」


私の言葉を遮った山内先生は、少し強い口調でそう言う。
そんな風に言ってくれるなんて思ってもいなくて、心臓がドキドキと高鳴り始める。
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