束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
 来店して三十分くらい経ったころ、彩子はようやくその話題を口にした。緊張で声が震えそうだった。飲み物を口にし、喉を潤してから本題に入った。

「そういえばさ、人事部にめちゃくちゃかわいい子いるよね?」
「かわいいっていえば、小谷さんかな? ちっちゃくて、ふわふわしてる感じの子だけどあってる?」

 それは彩子が想像していた人物像と一致していた。

「そうそう、そんな感じ。一個下だっけ? 二個下だっけ?」
「えっとね、小谷さんは二年目だから、私らの二つ下だよ」
「そうなんだ。あの子本当にかわいいよね。下の名前は何ていうの?」
「さやかちゃんだね」



 やはり『小谷さやか』だ。間違いない。洋輔の電話の相手は今話している小谷と同一人物だろう。同姓同名の人物がそう都合よくいるとも思えない。

 彩子はそのまま黙り込んでしまいそうになったが、どうにか平静を装い恵美との会話を続けた。

「へー、さやかちゃんか。この間さ、その子が廊下歩いてるの見かけたんだけどさ、ずっと人に話しかけられて全然前に進めてなかったよ」
「あはは。小谷さんモテるからねー」
「そりゃあ、あれはモテるでしょ。かわいいもん。うちの松藤といい勝負じゃない?」
「確かに、そうだね。あ、そういえば、松藤くんと小谷さん知りあいみたいだよ? 結構仲いいみたい」


 その台詞に彩子は息が止まりそうになった。裏づけまで取れてしまった。

 洋輔は小谷に想いを寄せているに違いない。恵美が仲いいと言ったのがその証拠だ。洋輔は誰にでも優しい反面、その懐に入れるのはごく限られた人だけなのだ。

 だがそれならば告白してしまえばいいのにと思う。洋輔が振られるとは思えなかった。
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