束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
 ドライブデートの日。

 この日は最初から彩子にキスするつもりで臨んでいた。二人きりになれる車内でなら、どうにかそこに持っていけるのではないかという打算があったのだ。


 二人で夕日を眺めたあとの車内。間違いなくいい雰囲気が漂っていた。

(いくなら今か……)

 手を繋ぐのとは訳が違う。明らかに恋人の領域へ踏み込むことになる。拒絶される可能性もないわけじゃない。

 それでも洋輔はこの先に進んでみたかった。


 彩子が逃げてしまわないよう、不意を突いてキスをした。

 それはほんの一瞬触れただけのごく軽いものだった。

(あー、やわらかい)

 初めて触れる彩子のそれに洋輔の胸は高鳴った。どうしようもないほどの喜びが広がっていく。

 だがそれと同時に恐怖にも支配された。彩子の反応がこわかった。


 探るようにその顔を見つめてみれば、そこには今まで見たこともない表情をする彩子がいた。

(っ……その表情は反則っ……)

 彩子は、ほんの少しだけ眉をハの字にして、困ったような、照れたような表情をしながらも、その口元には嬉しそうに笑みを浮かべていたのだ。その表情を見ていれば、もう一度そこに触れたいという欲が襲ってきて、洋輔はそれを追い払うようにすぐさま車を発進させた。


 嬉しくてたまらなかった。彩子は洋輔のことを拒絶しなかった。あの表情には間違いなく喜びが含まれていたと思う。彩子の特別な部分に踏み込むことを許されたようで、洋輔は今まで味わったことのない充足感を覚えていた。

(こんな気持ち初めてだ。彩子は全部受け入れてくれるのかな……彩子となら、俺は……)
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