束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
 ところが、彩子は歩きだして早々にピシリと固まってしまった。


 またもや洋輔が彩子の手を握ってきたのだ。


 彩子の驚きは先ほどの比ではない。今はそうする理由がないのだ。

 周りに人は多くないし、危ない道を歩いているわけでもない。恋人だからという理由以外思い当たらなかった。

 きっと、付きあってすぐに行動を起こされていたなら、ここまで驚かなかっただろう。だが一ヶ月もの間そんな素振りは見せなかったから、てっきりこういう恋人らしいことはしないものだと思っていたのだ。


 すぐに立ち止まってしまった彩子に、洋輔も立ち止まってから彩子に目を向けてくる。そして彩子に向かって微笑んだかと思えば、手をくいっと引っ張ってきた。それにつられて数歩足を動かせば、洋輔はそのまま歩きだしてしまった。もちろん繋がれた手はそのままだ。洋輔はいつも通りの表情で歩いている。動揺するのは彩子ばかりだ。


 心臓がドクドクと脈打って苦しかったが、洋輔との接触は心地よくもあった。

 
 彩子の手を握るその手は温かくて、大きくて、思いのほか柔らかくて、とても安心する感触だった。

 結局この日はずっと手を繋いでいた。彩子は心がくすぐったくてしかなたかった。



 そして、この水族館デートを皮切りに、何を思ったのか洋輔は一つ一つステップを踏むように二人の仲を深めてきた。
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