束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
まだ離れがたい空気が流れているが、アパートの前にずっと立っているのも目立つ。
もう行かねばと思い、彩子が「じゃあ」と言おうとした瞬間、洋輔が口を開いた。
「彩子」
初めて下の名前で呼ばれた。こんな別れ際に。
いや、別れ際でよかったのかもしれない。このままいれば、また動揺している姿を晒すことになってしまう。さっさと帰れば動揺を悟られなくて済むだろう。
「またね」
「うん、またね……洋輔」
彩子はせめてもの意趣返しにと洋輔に倣って下の名を呼んだが、それは自分の首を絞める行いでしかなかった。
彩子はそのまま洋輔に背を向け、振り返らずに自分の部屋に入った。本当に罪作りな男だと思う。どれだけ好きにさせれば気が済むのか。
彩子はベッドまで一直線に向かい、枕に顔を押し当てると思いきり「あー」と叫んだ。そうしないと何かが爆発してしまいそうだったのだ。
そうして胸の内にあった何かを吐き出せば、洋輔の本命にはなれないのだという事実が不意に蘇ってきた。
ともすれば洋輔と普通の恋人になったような錯覚に陥りそうになるが、それは起こりえないのだ。彩子はそれを忘れてはいけない。決して恋に溺れてはいけない。これは洋輔を守るための関係なのだ。彩子はそれをもう一度深く胸に刻み込んだ。
もう行かねばと思い、彩子が「じゃあ」と言おうとした瞬間、洋輔が口を開いた。
「彩子」
初めて下の名前で呼ばれた。こんな別れ際に。
いや、別れ際でよかったのかもしれない。このままいれば、また動揺している姿を晒すことになってしまう。さっさと帰れば動揺を悟られなくて済むだろう。
「またね」
「うん、またね……洋輔」
彩子はせめてもの意趣返しにと洋輔に倣って下の名を呼んだが、それは自分の首を絞める行いでしかなかった。
彩子はそのまま洋輔に背を向け、振り返らずに自分の部屋に入った。本当に罪作りな男だと思う。どれだけ好きにさせれば気が済むのか。
彩子はベッドまで一直線に向かい、枕に顔を押し当てると思いきり「あー」と叫んだ。そうしないと何かが爆発してしまいそうだったのだ。
そうして胸の内にあった何かを吐き出せば、洋輔の本命にはなれないのだという事実が不意に蘇ってきた。
ともすれば洋輔と普通の恋人になったような錯覚に陥りそうになるが、それは起こりえないのだ。彩子はそれを忘れてはいけない。決して恋に溺れてはいけない。これは洋輔を守るための関係なのだ。彩子はそれをもう一度深く胸に刻み込んだ。