束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
―――

「ありがとう、松藤。参考になった」
「どういたしまして。俺も意見欲しいのあるから、あとで時間くれる?」
「うん、いいよ。いつでも声かけて」
「ありがとう、折戸。あ、あと昼に送った件よろしくね」
「わかってます!」

 彩子はその顔に笑みを浮かべたまま、自席に戻っていった。


 二人がこうやって意見を求めあうことはしばしばあった。彩子と洋輔は信頼しあえる同僚なのだ。

 仕事のできる洋輔のそばは実に刺激的で、彩子は彼に負けるまいと必死に努力を重ねてきた。互いに励ましあい、ここまでやってきた。そうして気づけばプライベートでも一緒に過ごすほどの仲になった。ただの同僚ではない、友人と呼べるまでの関係になっていた。


 とはいえ洋輔は恋人を特別大事にしていたから、どんなに仲がよくとも恋人がいる期間に二人で会うようなことはなかった。他の同期も含めて一緒に食事に行く程度だ。彩子としては物足りなくも思うが、同時に恋人に対して誠実な洋輔を好ましくも思っていた。


 しかし、完璧人間に見える洋輔はなぜか恋の長続きしない男である。付きあっては別れてを繰り返し、フリーでいることもしばしばあった。そして、一人になれば洋輔はいつだって彩子を一緒に過ごす相手として誘ってきた。

 もちろんそこに深い意味はない。あくまでも友人としてのお誘いだ。二人で飲みにいったり、映画を観たり、市場調査と称して休日に二人で出かけることさえある。

 だから自然と二人でいる時間は長くなった。彩子は今では社内一洋輔と親しい人間であると自負している。



 そんな距離感で何年も過ごしてきた。しかも相手は色男である。

 友人であるはずの彼を好きにならずにはいられなかった。

 気づけば彩子は洋輔に同僚や友人として以上の感情を抱いていた。



 それが苦しい恋になるとも知らずに。

< 5 / 273 >

この作品をシェア

pagetop