束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
「どうにもならないことってあるからね……大人になればなるほど……」
「……うん。子供のころみたいに我儘は言えないしね」
「だね。まあ、松藤はもうちょっと我儘言ってもいいとは思うけど」
「そう?」
「うん。あ、そろそろお酒は終わりね。明日に響くから」
「わかった、そうする」
「ほら、やっぱり聞き分けがいい」
「まあそこは社会人だし」
「えらい、えらい」

 もう一度頭を撫でてやれば、やはり洋輔はされるがままになっている。

「ありがとう。折戸のおかげで明日もちゃんと働けるよ。……はあ。でもなぁ……週末一人が嫌なんだよな……」
「え? 私がいるじゃん」
「え?」
「折戸を誘いなよ」
「あー……誘っていいの?」
「いいよ? てかさ……」
「ん?」

 続きを促す洋輔を見て、彩子はとんでもないことを言おうとしている自分に気づいた。

 それ以上はだめだ、言ってはいけないと必死に自分に言いきかせる。

 その言葉を飲み込もうと手元にあったお茶を流し込んでみたが、流れていくのはお茶ばかりで、それは喉に詰まったままで流れていかない。脳は警鐘を鳴らしているのに、彩子の口はそれを無視して、とうとう喉に詰まったその言葉を吐きだしてしまった。




「……いっそのこと私と付きあう?」




 二人の間に沈黙が流れた。


 彩子は思った。

 一年前、あの事実を知った日から、こうなることは決まっていたのかもしれない、と。
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