ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
今から3年前。
一人の男性に声をかけられた。
「加賀美月さんですね?」
黒縁メガネをかけたガタイの良い30代くらいの男性だった。その人は私に名刺を差し出す。
「陽生のマネージャーをしております、金城と申します。
率直に申し上げますが、陽生と別れていただけますか?」
ヒュッと全身の血の気が失せるような感覚になる。
「陽生は今大事な時期です。主演映画が決まり、これからもっと俳優として活躍していく時期です。
クールでミステリアスというイメージも大事にしていきたい。
週刊誌に嗅ぎつけられる前に、別れていただきたいのです」
ここまではっきりと別れてくれと言われたら、モヤモヤしなくてよかった。
日華さんが大事な時期なのはわかってる。
恋人がいるなんて絶対にバレてはいけないのも重々承知している。
私みたいな一般人、全く釣り合ってないこともわかってる。
日華さんの演技力が評価される度に喜んでいた私が、いつの間にか格差を感じて苦しくなるようになっていた。
日華さんのことは愛しているけど、私なんかが傍にいてもいいのかなって……どうしても考えちゃう。
「……わかりました。でも最後に一度だけ、彼に会わせてください。
それを最後に彼の前から姿を消します」