ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
勝負の一本 side.日華
「そこまでだ!手を挙げろ」
「…………。」
「ゆっくりこっちを振り向け。……っ!な、なんで……っ!」
「兄ちゃん……」
「なんでお前がここにいるんだ!マサキ!!」
「――カット!」
監督の掛け声で構えていた銃を下ろす。
「なんか薄いんだよなぁ。ここは容疑者だと思って追っていた人物が、実の弟だっていう緊迫したシーンだぞ。集中できてるのか?」
「すみません……」
「もう一回!」
俺は今、映画『アクア・ブラッド』の撮影でロサンゼルスに来ている。
憧れの地平監督の作品に出演、しかも主演に選んでもらえてこれまで以上に気合いが入っている。この映画が成功すれば、主演男優賞にも大きく近づけるはずだ。
それなのに、なんだか上手く集中できていない気がする。
「さっきはごめん」
兄弟役で共演する吉川耀くんに謝った。
「僕のせいで何度もやらせちゃって」
「いえ、珍しいですよね。陽生さんがNG出すのって」
「緊張してるのかなぁ。地平監督の作品に出られるんで、舞い上がってるのかも」
吉川くんは意外そうに俺を見つめた。
「陽生さんでも舞い上がったりするんですね」
「そりゃするよ。学生時代から地平監督のファンだったから」