ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
なんて答えたらいいかわからず、すぐに言葉が出なかった。主演男優賞が獲りたくて焦ってる、なんてカッコ悪い。
そもそもノミネートされるかもわからないのに、気が早いと怒られるか笑われるか。はたまた呆れられるかもしれない。
俺が答えられずにいると、また監督が尋ねた。
「お前、兄弟は?」
「兄と弟がいます」
「三兄弟の真ん中か」
「はい」
「らしいな。真ん中ってのは上にも下にも気を遣って、バランスを保とうとするだろ。
お前もそういう役者だ。本来は」
「本来は……?」
監督の言う意味がわからず、聞き返した。
「心当たりあるんじゃないか?役と向き合うと同時に、周囲とも向き合っている。
この世界は様々な思惑がある。例えば、演技は下手でも主役に抜擢されるアイドルがいるだろう。あれには様々な大人の思惑がある。そいつより上手くても他の役者はそいつより目立っちゃいけないんだ。
あくまで主役を食わない程度に、でも自分の存在感をアピールする。初めてお前を見た時、それが異様に上手い役者だと思ったよ」
目から鱗だった。
自分ではそんな風に思ったこと、考えたことは一度もなかった。
でも、主演より助演の方が向いているとは思っている。元々主役を目指していたわけじゃなかった。
端役でもいいから、様々な役どころに使いたいと思ってもらえるような役者になりたかったんだ。
役者を目指した当初は。