ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
監督はかけていたサングラスを外し、レンズを拭きながらこう尋ねた。
「陽生、なんで俺がお前を選んだかわかるか?」
「いえ……」
「お前は主役向きの役者じゃないと思ったからだよ」
どういう意味かわからず、ただ監督を見つめることしかできなかった。
監督はサングラスをかけ直す。
「主役に向かない奴が周りに担ぎ出されて必死で主役張ってるって思ってな。圧倒的な存在感があるわけでもない。
だが、必死でど真ん中に立とうと足掻いてる。面白え役者だと思ったよ」
……バレていた。流石は地平監督、役者を見る目は本物といったところか。
その通りすぎてぐうの音も出ない。
「それなら、どうして主演にしたのですか」
「簡単な話だ、お前の演技が良いと思ったから以外に何がある?」
「っ、」
思わず目頭が熱くなる。
「お前の演技力は本物だ。どんな役にも憑依して演じられる。なのに周りに合わせられる器用さもある。
そんな奴が真ん中に放り込まれてワタワタしてたら、もっと見てみたいって思うだろう」
嬉しかった。あの地平監督にこんな風に言ってもらえることは。
今まで役者を続けてきて、心の底からよかったと思った。
「ありがとう、ございます……っ」