ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
弟役の吉川くん、妹役の今井莉緒さんとは特に意見交換を密に行なった。
日に日に兄妹としての絆が強くなっていくように感じた。
いつの間にか自然と雑談できる間柄になっていた。
「陽生さんって普段何食べるんですか?」
「普通に何でも食べるよ。自炊もするし」
「そうなんですか!?」
「陽生さんがおにぎりとか食べてるの想像つかないです!」
「おにぎり好きなんだけど」
「えーーっ!!」
そんな話をしながら、あかりのおにぎりが食べたいなぁなんて思った。
あかりとは時間の許す限り、連絡を取り合っている。16時間という時差は大きく、あまり電話はできなかったけど。
現場では気づかれなくても、あかりは些細な変化にも気づいてくれる。そんな風に心配してくれることが嬉しかった。
心配かけないように、体調にも気遣いながら頑張ろうと思った。
その矢先のことだった。
「――陽生さんっ!?」
俺の意識とは裏腹に、体が動かなくなった。
自分でも驚いた。急に体に力が入らなくなり、全身から脱力していく感覚を初めて覚えた。
「陽生さん!!陽生さん!!しっかりしてくださいっ!!」
「陽生くんっ!!」
俺を呼ぶ周囲の声は聞こえている。なのに言葉を返すことができない。
その場に崩れ落ちて、起き上がることもできなかった。
メンタルは元気だと思っていた。何の辛さも感じていない。だが体は気づかないうちに限界を超えていたようだ。
「陽生っ!!」
最後に耳に届いたのは監督の声だった。
――すみません、監督。こんな無様な姿を見せたいわけじゃなかったのに。
お前を使ってよかったと思ってもらいたかったのに。
――ごめん、あかり。あんなに心配してくれたのに、こんなことになってしまって……。