ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 やっぱり私はこの人が好きだ。
 想うことは許されなくても、ファンとして応援することは許して欲しい。

 カーテンコールでは大きな拍手に包まれた。私も手が真っ赤になるくらい叩き続けた。
 拍手は鳴り止まず、ダブルカーテンコールになったところで咄嗟に立ち上がる。

 思わず誰よりも先にスタンディングしてしまった。
 勢いのまま立ち上がってしまったけれど、ポツリポツリと他の人たちも立ち上がり、会場全員スタンディングオベーションとなった。

 その光景を噛み締めるかのように、客席を見回して深々と頭を下げる日華さん。
 顔を上げた時、目が合ったような気がした。

――いや、気のせいだとは思う。

 思わず真っ先に立ち上がってしまったけど、顔までは見えていないはず……。
 大丈夫よね――?


* * *


 人の波に上手く乗りながら退場している時。
急に真横からものすごい力で引っ張られて攫われた。
 本当に一瞬の出来事だった。

 まるで疾風に攫われたかの如く引っ張られ、そのままどこかの部屋にまで連れて来られる。
 恐らく舞台裏の一室だとは思うけれど、本来関係者以外は入れない場所のはずだ。

 どうしてこんなことに……。



「――あかり」


 3年振りに呼ばれた名前は、自分の名前なのに甘美な響きを孕み、何故か泣きたくなった。


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