ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 当たり前かもしれないけど、火浦さんに対してあかりはタメ口だ。二人の会話の雰囲気からも、気を許していて信頼感があるのが感じられる。


「だからなんかいつもと違ったんだな。落ち着いたブラウンで父母受けを狙ったわけか」
「そういう分析やめて」
「でもよかったじゃん。両親に挨拶ってことはトントン拍子で進んでるんだろ?」
「まあ、そうなのかな?」


 あかりはチラリと俺を見やる。


「これから公開予定の映画が無事に公開されて落ち着いたら、籍を入れたいと思っています」


 もちろん落ち着いたの中には、主演男優賞を受賞するというのも含まれている。何が何でも獲ると心に誓った。
 それくらい懸けたのが今回の作品だ。


「『アクア・ブラッド』ですよね?あれめちゃくちゃ楽しみにしてます」
「ありがとうございます」
「うちの職場にも陽生さんファン多いですよ。結婚するって聞いたらみんな会社に来なくなるかも」


 冗談めいた口調で笑う火浦さんは、初対面の俺に対しても人当たりが良い。きっと職場でも周囲の人と良好な人間関係を築いているのだろう。
 人見知りで他人と打ち解けるのが苦手な俺とは大違いだ。


「日華さん、そろそろ……」
「そうだね。すみません、そろそろ失礼します。わざわざお時間いただいてありがとうございました」
「こちらこそ。あかりのことよろしくお願いします」


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