ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


「……久しぶりだね」


 ドアの鍵を閉め、くるりと振り向いた日華さんは髪が汗で乱れていた。
 まだ着替えていた途中なのか、上は白いTシャツだけど下は衣装のままだった。
 そんなチグハグな格好でさえ、艶っぽさを感じてしまう。

 見つかってしまった……。
 私は何も言えなくて、黙って俯く。


「観に来てくれたんだね」

「……友人からチケットをいただいたので」

「元気だった?」

「……はい」


 ドクンドクンと心臓が大きく脈打つ。
 どうしよう、どうしよう。

 今すぐここから逃げなければいけないのに、足が震えて動かない。


「……あかり、ずっと会いたかった」

「……っ」


 顔は見れないけれど、あまりにも愛おしそうに、そして切なげに呼びかける声に涙腺がもう限界だ。


「ずっと探してた。ずっと会いたかった。
あかり、俺は……」
「迷惑です」


 絶対に泣くまいと思うあまり、声は震えていた。


「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよね?見つかったらどうするんですか?」

「あかり……」

「こういうことされるのは、困ります。
あなたには立場というものがあるんです……」

「……。」

「帰らせてください……」

「あかり、話を……っ、いやわかった」


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