ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
悲しそうにそう言った日華さんは、私にあるものを握らせた。
それはキャンディだった。
「共演者が糖分補給にとくれたものなんだ。お詫びに受け取って。
裏口から送るね」
「……はい」
一度も彼の顔をまともに見られないまま、誰にも見つからないように裏口まで送ってもらった。
帰る前に一礼してから立ち去った。
歩きながら、ポタポタとアスファルトに雫が落ちる。
やがて道の真ん中でしゃがみ込み、人目も気にせず泣きじゃくってしまった。
「うっ、う〜〜〜〜っっ」
ごめんなさい。
でも、ああするしかないんです。
迷惑だなんて思ってないです。むしろものすごく嬉しかった――。
私もずっと会いたかった。会いたくて会いたくて仕方なかったのに。
だけど、女性と一緒にいるところなんて、誰にも見られてはいけないから。
私は絶対にあなたの前に現れてはいけない存在だから。
ごめんなさい。
未だに好きでごめんなさい……。
それからフラフラしながらも駅まで何とか辿り着き、酷い顔のまま電車に乗った。
どうやって帰宅したかわからない。
いつの間にか実家に着いていて、すやすやと静かに眠る星來の枕元で、またボロボロと泣いてしまった。
本当は星來に会わせたい。
星來にも、この人がパパだよって教えてあげたい。
「……どうして……」
ただ、愛しているだけなのに。