ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 そんなに真っ直ぐな瞳で頼み込まれて、断れない私が悪いのだろうか?断れる人なんているのだろうか?


「……わかりました、よろしくお願いします」

「ほ、本当に?」

「ただ、今の仕事は今月中までなので、来月からだと有難いのですが……」

「もちろんだよ。ありがとう!」


 どうして顔を綻ばせて嬉しそうにするのですか?
 そんな風に期待を持たせるような反応は、胸が痛みます……。

 私は自分の気持ちを強く押し込め、深々と頭を下げた。


「働かせていただくのであれば、誠心誠意努めますのでよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 心のどこかではこんなのは良くないと思う気持ちがあるし、もし金城さんにバレてしまったらまた引き離されるに決まっている。
 だから、次の職が決まるまでにしよう。

 詳細は明日以降に相談することにして、私たちは連絡先を交換した。
 キャンディの包み紙に書かれていたことについては、気づいていないフリをすることにした。あれは追求してはいけない、パンドラの箱のような気がするから。

 それからお風呂をいただいて貸してもらったスウェットに着替えた。ブカブカでほんのり優しい香りが漂うスウェットに袖を通すと、日華さんに包み込まれているような気がした。


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