ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 高級外車なことに気づいてすごく気が引けたけど、妃乃は「乗って、乗って」と軽い調子だった。
 最終的に星來が自分から乗ってしまったので、慌てて抱っこしてチャイルドシートに乗せる。

 多分だけど、このチャイルドシートも高級品なのでは?


「最初に使うのが星來でごめんね……」

「いーの、いーの。気にしないで」


 妃乃はこう見えて天王寺グループという大企業の社長令嬢で、かなりのセレブだ。
 その割に本人はとても庶民派だけれど。


「送ってくれてありがとうございました」

「またね、あかり」

「またね。気をつけてね、妃乃。元気な赤ちゃん楽しみにしてるから」

「ありがとう!」


 すっかり眠ってしまった星來を抱っこしたまま、見えなくなるまで車を見送った。

 妃乃はとても幸せそうだった。
 妊娠してから旦那が過保護すぎて困る、なんてぼやいていたけど、大事にされている証拠だ。

 私がいるからなのか旦那さんはあまり喋らなかったけど、言葉の端々に妃乃を気遣う優しさが感じられた。
 良い人に出会えてよかったなと心から思った。

 羨ましくない、と言えば嘘になる。
 星來に父親がいないこと、申し訳なくなる気持ちもある。

 その分二人分以上の愛情を注いでいるつもりだけど、きっと寂しい思いもさせていると思う。

 それでも私は、星來を一人で産んだことを後悔したことは一度もない。


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