ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
帰り道、私はこそっと日華さんに尋ねる。
「動物園、本当にいいんですか?今ドラマの撮影中なのに」
「1日くらい何とかなるよ」
「色々と星來に合わせていただいてありがとうございます」
「いや、僕がそうしたいだけだから」
「にちかさーん、かたぐるましてー」
「よーし、行くよ〜」
「きゃーっ!!」
日華さんに肩車してもらい、星來は嬉しそうにはしゃいでいる。
「たかい、たかーい!」
「ちゃんとつかまっててね」
「すごーい!せいら、ママよりおっきいよ!」
「そうだね、すごいね」
少し離れたところから、笑い合う二人の姿を見守りながら思った。これは夢だ。
泡のように生まれた直後に弾けて消える、束の間の夢。
そう思わないと目頭が熱くなってしまう。
私はずっと夢と現の狭間で漂っている。
この夢に手を伸ばしたくなる。
そんなこと、許されるはずがないのに。
私たちが親子として堂々と歩ける日なんて、こないのに。
「あれ……?」
自分でも無意識に私の頬に一筋の雨が流れていた。
二人に気づかれないうちにそれを拭い取る。
――もっと強くならなくちゃ。
お別れをするその日まで。
もうしばらくの間だけ、夢を見させてください。