ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 正直に言うと、土田先輩はやたらと距離が近くてちょっと苦手に思っていた。


「あかりちゃんって彼氏いるの?」
「いません」
「今までは?」
「いません……」
「マジで?そんなにかわいいのに?」
「はあ……」
「じゃあさ……俺ら付き合っちゃう?」


 急に耳元で囁かれ、ゾワッと全身に寒気が走った。
 その直後、するりと指を絡ませてきて、更に鳥肌が立つ。

 怖い、気持ち悪い。
 なのに声が出せず、体が強張って逃げ出すこともできなかった。


「土田、やめろ」


 パーン!という乾いた音が響いたと同時に、握られていた手が離される。

 そこにいたのは、丸めた台本で土田先輩の頭を叩いたであろう、陽生先輩だった。


「セクハラするな、この酔っ払いが」


 そう言って陽生先輩は私を立たせて、その場から連れ出してくれた。


「大丈夫だった?ごめん、あいつ酔っ払ってただけだから」

「……っ」


 私を気遣ってくれる優しい言葉に、思わず涙が溢れた。
 急に泣き出した私を見て、陽生先輩はちょっとびっくりしたように目を丸くする。


「怖かった?」

「いえ、うれしくて……助けてくれてありがとうございました……っ」

「いや、別に……」

「助けてくれたのが、陽生先輩で嬉しかったです……」


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