ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。



「…………嫌だ」

「え?」


 次の瞬間、何が起きたのかわからなかった。
 長い腕が伸びたかと思ったその直後には、私は日華さんの腕の中にいた。


「日華さん!?」

「嫌だ」

「な、何を言って……」

「あかり、どこにも行かないでくれ!」


 私を抱きしめる力が強くなる。
 日華さんの震えるような悲痛な声は、お芝居以外で初めて聞いた。


「やっと会えたのに……」

「は、はなして……」

「今でもあかりが好きなんだ」


 な、嘘でしょ……?


「あかりがいなくなった3年間、ずっと探してた。
ずっと忘れられなかった。俺が愛しているのは今も昔もあかりだけなんだ」

「……っ!」


 なんで、なんでそんなこと言うんですか――?
 私は今、再婚しますと言ったのに。

 あなたから離れたいのに……っ。


「ねぇ、教えて。どうして俺の前からいなくなったの?」

「……っ、星來の父親が、好きだったからです」


 私は心を殺すことにした。
 揺らぎそうになる心を押し殺し、悪魔になることに決めた。
 ゆっくりと日華さんの胸を押し、腕の中から逃れる。


「あの人が好きで一緒になりたかったからです」

「……嘘だよね?」

「本当です。芸能人となんて、疲れちゃったんです」


 最初からこうすればよかったんだ。悪魔のような酷い女になって、嫌われたらよかった。
 後腐れなくお別れできたらよかったけど、そんなの甘かった。私自身の心を殺さないと、また揺らいでしまう。


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