ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 もっと俳優として成長して、男としても大きくなって、いつかあかりにプロポーズをする。
 当時の俺はそれしか考えていなかった。

 仕事が忙しくなるけど充実もしていて、ちゃんとあかりのことを見れていなかったと思う。
 
 3年前、突然あかりがいなくなるなんて思ってもいなかった。


「あかりっ!あかり!!どうして……っ」


 あかりは俺の前から姿を消した。
 SNSは全部消されていたし、電話番号も繋がらない。

 サークル仲間に連絡してみたが、誰もあかりの新しい連絡先を知らなかった。


「なんで……」


 当時はとにかく追い詰めた。自分の何がいけなかったんだろう?何があかりにこうさせてしまったんだろう?

 思えば、最後の夜はあかりから誘った。あかりから誘ってくれたのは、あの夜が初めてだった。
 そのことに浮かれていた自分は本当にバカだ。

 思い返してみれば、あかりの様子がいつもと違った。自分から誘ってきたこともそうだが、避妊を拒むことなんてなかった。
 安全日だというあかりの言葉を信じてしまったが、そもそもあんなことを言うなんて……。

 多分何か事情があったのだと思う。でなければ、あかりが何も言わずに姿を消したりしない。
 でも、情けないことに何の心当たりもない。


< 73 / 195 >

この作品をシェア

pagetop