ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 顔を上げて見つめた社長の表情は、やはり穏やかなものだった。


「今年の日本マカデミー賞で主演男優賞を受賞するんだ」


 安易な条件だとは思っていなかったが、求められたハードルは非常に高いものだった。


「世間が認める俳優になれたなら、君が結婚しようが子どもがいようが関係ない。むしろプラスになるかもね。なかなかの純愛ストーリーだし」

「社長……」

「それと、君が条件を満たすまでは別々に生活してもらう。会うのは月に一度のみだ」

「っ!」


 あかりと星來ちゃんに会えるのは、月に一度のみ……。


「もちろん、会う場所も事務所の管理下だ。そうだな、水川にも同行してもらおうか。
彼女たちにはきちんと住む場所を与えて、生活は保証する。金城のしたことは日華と事務所のためとはいえ、一人の女性の人生を狂わせているからね。
支援する義務はあるだろう」

「……。」


 金城さんは黙って顔を背ける。


「どう?日華。できるかい?」

「やります」


 迷いなどなかった。社長の目を見て、はっきりと伝えた。


「やり遂げてみせます。主演男優賞も必ず受賞してみせます」

「そう、期待してるよ」


 社長は柔らかく微笑む。

 日本マカデミー賞主演男優賞、絶対に獲ってみせる。あかりと星來ちゃんのためなら、何だってする。必ず二人を幸せにすると誓った。


< 92 / 195 >

この作品をシェア

pagetop