孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 睡眠時間が延びたとはいえワーカホリックなことに変わりはなく、彼は土日でもよく出社したり自宅でパソコンをしたりと働いていることが多い。

「ひかり」

 私に気づいた彼が顔を上げる。

「今晩、食事にでも行かないか」

「え」

 そんな誘いは初めてだった。忙しい彼とは普段食卓を囲むことすらほとんどない。

「いいですね」

 平日、仕事の合間に昼食を一緒に取ったことはあるけれど、ふたりでゆっくり外食をしたことはないから想像しただけで胸が沸き立つ。

「あー、ただ……」

 手に持ったスマホに目を落とすと、彼が「どうした」と不思議そうに目を細める。

「いろどり亭に……お世話になった人たちに、まだ事情を説明できてなくて。今日お店が開く前に顔を出そうかと思ってたんです」

 そもそも私は実家の面々にも今の状況を説明できずにいた。何をどこから話せばいいのかわからず、後回しにしてしまったのだ。

 そっちにも早いところ説明しに行かないとな。まあ、一か月経ってもうまく説明できる自信はないけれど。

「そうか」

 関心のなさそうな無表情を見つめ返して「あっ」と思い立つ。

「そうだ、一緒に食べに行きます? いろどり亭。庶民の味で穂高さんのお口には合わないかもしれませんけど」

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