孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
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ホダカ・ホールディングスは、食品関係のグループ企業を率いる持株会社だ。つまり小さな食品工場や経営に苦しむ中小企業を買収してグループ化し、それらの会社の方針策定や経営管理を行い、全体としての収益につなげることを業務としている、ということらしい。グループ全体の従業員数は千二百人を超えるけれど、本社勤務の人間は四十名に満たないベンチャー企業だ。
本社は仲野坂駅に置かれているけれど、面接に指定されたのはなぜか都心の一等地に建つ高級ホテルの一室だった。
二日前に来たスカウトメールに返信をし、あれよあれよという間に話が進んだはいいものの、身の丈に合わないようなエントランスに足を踏み入れ、立ちすくむ。
季節外れの熱線をそそぐ燦燦とした太陽光のことなど一瞬で忘れさせるような、落ち着いた空間に、光量が落とされた雰囲気のある照明。紳士・淑女にしか着席が許されないようなロビーのソファ。
持っているものの中で一番上等なジャケットを着ていたけれど、それでも場違いな気がしてならない。
気後れしながらこそこそとエレベータホールまで進み、タイミングよく口を開いた箱に急いで乗り込んだ。
「あ、あれ」