孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 三十七階を押すけれど、ボタンが点灯しない。まごついている間に扉が閉じる――直前に、ぬっと手が差し込まれた。閉じかけた扉が「失礼しました」とでもいうように再び口を開く。

 急いだ様子で乗り込んできたのは、三つ揃えのダークスーツに身を包んだ三十半ばくらいの長身の男性だった。メタルフレームのスタイリッシュなメガネをかけたその人は、まっすぐ私を見下ろすと端正な顔をほころばせる。

「遊佐ひかりさんですね?」

「え? はい、そうですけど……」

「私、ホダカ・ホールディングスで社長秘書をしております、深水(ふかみ)と申します」

 スマートな仕草で名刺を差し出され、はっと背筋を伸ばした。深水って、スカウトメールのやりとりをした担当の人だ。

「頂戴いたします」と恭しく名刺を受け取り、そこに記された内容を見て、はたと思う。

「社長秘書?」

 そんな職務の人が採用まで担当するの? 人事部とか総務部の仕事じゃないのかな。

「お伝えし忘れていたので、ロビーでお待ちしていたんです。ここはカードキーがないと上層階へ上がれないんですよ。すぐに見つかってよかった」

 名刺を手にしたまま突っ立っている私に微笑みかけ、彼はボタンパネルにカードキーをかざし、三十七階を押した。私のときと違い、ボタンは呆気なくオレンジ色の明かりを灯す。

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