孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
私が振り返ると、壱弥さんはこころなし眉を下げた。
「え、ダメか?」
「や、ダメじゃないですけど……うちのカレーなんて、お口に合わないかもしれませんよ」
「うちのカレーなんてって、失礼ね。母の絶品カレーを」
「市販のルーを混ぜただけじゃない」
「それだけじゃないわよ! コーヒーとかリンゴとか隠し味をたくさん入れてるんだから」
「今日カレーなの? やった! このお菓子も食べていい?」
どさくさに紛れて菓子折りに手を伸ばす海の耳を掴む。
「ダメ。というかあんた宿題やったの?」
「陸がやってた」
「写す気満々じゃない! 自分でやりなさい」
「てか姉ちゃん、結婚式しないの? 俺、姉ちゃんの花嫁姿見たいなぁ」
「やだ太陽、あんた泣いてるの?」
母親にからかわれる弟を見て、ぐっと胸がつまった。「泣いてねーし」と目をこする弟に思わず抱きつく。
「太陽! 姉ちゃんやっぱり結婚しないから!」
「いやもう入籍してんだろ」
一気に騒々しくなる部屋の片隅で双子の片割れ陸はマイペースに本を読んでいる。そしてもうひとり、上の妹はまだドアの陰に隠れていた。壱弥さんに視線を送りながら「尊い……」とつぶやいている。
いつもの遊佐家の騒々しさにはっとして壱弥さんを振り返ると、彼は顔を伏せて小さく肩を揺らしていた。