孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 結婚生活をはじめて二カ月が経過するけれど、いつも私が先に寝ていたから起きているときに同時にベッドに入ったことはない。寝たふりならしたことがあったけれどそのときとは状況が違う。

 考えたら心臓がバクバク騒ぎ出した。

「うわ、どうしよう」

 周囲を見回してももちろん逃げ場はない。

 また寝たふりをしてしまおうか。布団にもぐりこんでみるけれど、かえって落ち着かずに顔を出す。そうこうするうちにドアが開いて、反射的に身を起こした。

「まだ起きてたのか」

「はい……」

 私と色違いのシルクのパジャマに身を包んだ彼がまっすぐベッドに進んでくる。乾ききっていない髪が目にかかり、いつもよりずっと幼く見えた。

「き、今日はありがとうございました。すみません、うるさい家で」

 緊張を隠すように言うと、彼はベッドの反対側に腰掛け、肩にかけたタオルで髪をぬぐった。

「いや、納得がいった」

「え?」

「ああいう家庭で育つと、おまえみたいなまっすぐな人間ができあがるんだな」

 首をひねる私を振り返り、彼はつぶやく。

「居心地、悪くなかった」

 視線が合わさって、きゅっと胸が締まった。向き直った広い背中を見つめる。

 ああ、この人は本当に素直じゃない。

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