孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
『居心地が悪くなかった』というのはつまり、居心地がとてもよかったということだ。

「それはよかったです。というか壱弥さん、私たちを見て笑ってませんでした?」

 俯いて肩を揺らしていた姿を思い浮かべながら言うと、彼は「さあな」と答えを濁した。

 素直じゃないなぁ。

 ちらりと視線をよこした彼が私の表情に気づいて眉をひそめる。

「……なんで笑ってる」

「いえべつに」

 睨まれたのに、委縮するどころかますます笑みがこぼれてしまう。

 この人とはじめて対峙したときからは考えられなかった。

 めったに変わらない無表情が怖くて近寄りがたいタイプだと思ったのに、今は彼がほんの少しでも表情を変えるのが楽しみでならない。

「……笑いすぎだろ」

 ふてくされたように背中を向ける姿が愛しかった。

 どうしよう、うれしくてたまらない。壱弥さんは私に心を開いてくれている。

 ピッと音がして、照明が落ちる。彼がリモコンで操作したらしく、ドア付近のフットライトだけがささやかに室内を浮き上がらせる。

 落ち着いた色合いの光に照らされた壱弥さんがベッドに入ってくる。心臓が再び騒ぎ始めて、布団の端を握りしめた。少しずつ近づいてくる気配に心音が激しくなっていく。

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