孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
「なにを、ちょ、やはははは」

 両方の脇腹を同時にくすぐられて身もだえる。逃げようと体をひねるけれど、壱弥さんの手はしつこく追いかけてきた。彼の手を掴んで引きはがそうとするけれど、力が強くて全然かなわない。

「や、やめて、やははははは、もー!」

 ちっとも止まないくすぐり攻撃に業を煮やし、私は反撃を試みた。壱弥さんの脇腹に手を伸ばす。

「おっ」

「攻撃こそ最大の防御!」

「させるか」

 彼の手に腕を掴まれては振りほどき、しつこく脇腹を狙った。組んず解れつ攻防戦を繰り広げ、最終的に私が壱弥さんの上にまたがり両腕を掴まれている状態で静止した。

 互いに肩で息をしながら見つめ合い、どちらからともなく笑いだす。

「必死ですね」

「おまえこそ」

 子供みたいにベッドの上を転げまわって布団はぐちゃぐちゃだ。

 だだっぴろいシーツに寝転がった彼のうえに覆いかぶさっている自分。腰に手を回されただけで緊張していたのに、今は吹っ切れたみたいに冷静だった。

 いつからか触ってみたいと思うようになっていた、彼の滑らかな頬。

 そっと手を伸ばして触れると、彼の静かな瞳に射抜かれる。

「笑った顔、素敵です」

 ついこぼれた本音に、自分ではっとする。

 壱弥さんの切れ長の目が丸まって、やがて不自然なほど細くなった。

「……笑ってない」

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