孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
「同衾契約は破棄して、本当の夫婦になりたい」

 強く握りしめられた手から熱が伝わってくる。真剣な眼差しに胸の奥が震えた。

 これは夢? 

 そう思うほど壱弥さんは淀みなく、私が欲しかった言葉を紡ぐ。

「俺はおまえがいないとダメだ」

 こらえきれずに涙が頬をつたう。

 いつも無表情で人を寄せ付けないように全身に張り巡らせていたバリアが、一瞬で砕け散ったように見えた。

 気がつくと彼の首に抱き着いていた。

「私も、壱弥さんとずっと一緒にいたい」

 受け止めるように大きな手が背中に回され、ぎゅっと抱き締められた。

 鼻先をかすめる匂いと柔らかな体温に包まれて、心も体もじんわり溶けていきそう。

 理屈じゃなかった。

 本能で、私は壱弥さんを求めている。

 しばらく抱き合っていたら、ふいに体が浮いた。私を横抱きにして壱弥さんが立ち上がる。まっすぐ前を向く彼の目もとは、熱に浮かされたみたいに赤らんでいる。

 彼は私を抱えたまま階段を上り、寝室の扉をくぐった。ベッドにそっと下ろされた瞬間、唇を塞がれる。

 このあいだのように、触れるだけのキス。それだけでも体が熱くなるのに、壱弥さんはしばらくすると唇を割って入ってきた。

「んん」

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