孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
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晴れやかな五月の第二土曜日。窓の外に目を向ければ街路樹を覆う新緑が風に揺れている。
「うんうん、絶好のお天気」
鼻歌を歌いながら厨房でキャベツをみじん切りにしていると、背後から声を掛けられた。
「ひかりさん、そろそろ時間じゃないですか? 遅れますよ」
「うん、これ終わったら出るね」
エプロンをかけた大学生ボランティアのみなみちゃんが時計を見上げて眉をひそめる。
「ていうか、いくら今日がイベントだからって、ひかりさんが来るとか、ちょっと信じられないです」
「えへへごめんね、早くに目が覚めちゃって。なにかしてないと落ち着かなくて」
子どもたちが作る餃子のタネの仕込みを終えてエプロンを外すと、みなみちゃんがひったくるようにしてエプロンを奪い、お店の出入り口を開けてくれた。
「ほら、もうタクシー待ってますよ」
「ありがとう。行ってきます!」
タクシーに乗り込んでから手を振る。手を振り返してくれるみなみちゃんが立っているのは、白抜き文字で『きさらぎ食堂』と書かれた赤い看板の前だ。
きさらぎ食堂はオフィス街に軒を連ねる炊き立てご飯を売りにした定食屋だ。かぞく食堂はその一角を利用して活動している。今日はお店の定休日を利用して『餃子づくり体験』を行うのだ。