孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 わずかに眉根を寄せると、彼は「来い」と強引に私の腕を引っ張った。ベッドに投げ出され、パンプスが片方脱げる。

「ちょ」

 自身のシャツのボタンを窮屈そうに開きながら、その人はベッドに上がってくる。首もとから深く窪んだ鎖骨が覗いて、どきりと心臓が鳴った。こんな状況なのに胸を高鳴らせたりして何を考えてるの、と自分で自分を叱りつける。

 いくら顔がいいといっても許されることじゃない。それなのに、どういうわけか恐怖心が湧かないのだ。なんだか現実味がなくて。

 自分に覆いかぶさってきている相手が、上場を果たしているベンチャー企業の辣腕社長だとか、短大を卒業して六年間勤めた会社から先週いきなり解雇通告を受け、慌てて転職サイトに登録したタイミングで彼の会社からスカウトのメールが来たこととか。いろんなことが一度に起こりすぎて頭の処理が追いついていない。

 なにより私を見下ろす彼が、整っているなんてレベルじゃないくらい見目麗しいことも大きかった。

 三十代半ばとは思えないくらいきめ細やかな肌に、鼻筋は定規で引いたみたいにまっすぐで、形のいい唇は柔らかそうな桜色。目もとはくっきり二重で見るものを惹きつけるような色気のようなものを漂わせている。

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