孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 提示された婚姻届に目を落とす。空白の項目は『夫になる人』『妻になる人』という文字以外は見慣れたものだった。氏名、住所、本籍地。ハローワークでもそうだし、免許更新や行政手続きで記入を求められるほかの用紙となんら変わらないように見える。

 ――結婚なんてただの契約だ。

 思い出したのは、昨日穂高社長から言われた言葉だった。

 たしかに、そうかもしれない。

 昨日出会ったばかりの人とでも、紙切れ一枚を役所に提出するだけで夫婦になれるのだ。何年も一緒にいたはずの純也とだってろくに分かり合えていなかったのだから、結婚には一緒にいた年数なんて関係ないのかも。

「ひとつ、質問していいですか」

 薄い用紙を持ち上げると、かさりと乾いた音がした。穂高社長が婚姻届に注いでいた視線を私に移す。

「なんだ」

「たとえば、この婚姻届を出したとして。あなたと結婚したあとに、お互いに好きな人ができたら?」

 想定外の質問だったのだろうか。穂高社長は一瞬だけ眉を持ち上げ、すぐにもとの無表情に戻った。

「そのときは離婚届に判を押せばいい。まあ、俺が言い出したからには、俺からお前に三行半を突き付けることはないがな」

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